夜中に胃痛で目が覚めるあなたへ|消化器内科医が原因・対処法・受診目安を徹底解説
- 院長
- 2024年5月1日
- 読了時間: 19分
更新日:4 日前
夜中に胃痛(心窩部痛)で目が覚める。
殆どの場合はFD(機能性ディスペプシア)です。
夜中に痛くなるということはそれまでは痛くなかったということです。
殆どの場合は検査をしてもなにもないんですが、勿論重大が疾患が
ないとは言いません。一応の検査はやっておかないと心配ですね
「ぐっすり眠っていたはずなのに、突然の胃の痛みで目が覚めてしまった…」 「最近、夜中に胃が痛くて何度も起きてしまう…」
このような経験はありませんか?夜間の胃痛は非常につらく、睡眠の質を著しく低下させるだけでなく、日中の活動にも影響を及ぼしかねません。何より、「何か悪い病気なのでは…」という不安に苛まれる方も少なくないでしょう。
この記事では、消化器内科の専門医の視点から、夜中に胃痛で目が覚める原因として考えられる病気、ご自身でできる対処法、そして医療機関を受診すべき目安について詳しく解説します。つらい夜中の胃痛から解放され、穏やかな夜を取り戻すための一助となれば幸いです。

第1章:なぜ夜中に胃が痛むのか?考えられる主な原因
夜間に胃痛が起こりやすいのには、いくつかの理由があります。就寝中は日中と比べて消化管の働きが変化し、胃酸の分泌リズムも影響を受けます。また、横になるという姿勢自体が、特定の病気の症状を悪化させることもあります。
ここでは、夜中の胃痛を引き起こす可能性のある主な原因疾患について、消化器内科の観点から解説します。
1-1. 胃食道逆流症(GERD)
胃食道逆流症は、胃の内容物(主に胃酸)が食道へ逆流することによって、食道の粘膜に炎症やただれ(びらん)が生じる病気です。
主な症状:
胸焼け(胸のあたりが焼けるように感じる)
呑酸(酸っぱい液体が口まで上がってくる感じ)
胸の痛み、つかえ感
慢性の咳、喉の違和感、声のかすれ
夜間の症状(特に胸焼けや咳で目が覚める)
メカニズムと夜間に悪化しやすい理由: 食道と胃のつなぎ目には、胃の内容物が食道へ逆流するのを防ぐ「下部食道括約筋」という筋肉があります。この筋肉の働きが弱まったり、胃酸の分泌が過多になったり、腹圧が上昇したりすると逆流が起こりやすくなります。 特に夜間、横になると胃と食道が水平に近い位置になるため、胃酸が食道へ流れ込みやすくなり、症状が悪化する傾向があります。食道裂孔ヘルニア(胃の一部が胸腔内にはみ出す状態)がある方も、逆流を起こしやすくなります。
その他: 脂肪分の多い食事、食べ過ぎ、アルコール、喫煙、肥満、ストレスなどが悪化要因となります。
1-2. 胃潰瘍・十二指腸潰瘍
胃潰瘍や十二指腸潰瘍は、胃や十二指腸の粘膜が胃酸によって深く傷つき、えぐれた状態になる病気です。
主な症状:
みぞおち周辺の痛み:
胃潰瘍: 食後しばらくしてから痛むことが多い(早発痛)。
十二指腸潰瘍: 空腹時や夜間に痛むことが多い(空腹時痛、夜間痛)。食事をとると一時的に痛みが和らぐこともあります。
吐き気、嘔吐、食欲不振
黒い便(タール便:潰瘍から出血した場合)
体重減少
メカニズムと夜間に痛む理由: 主な原因は、ヘリコバクター・ピロリ菌(ピロリ菌)の感染と、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs:ロキソプロフェンやイブプロフェンなど)の副作用です。これらが胃の粘膜を保護する防御機能と、胃酸などの攻撃因子のバランスを崩すことで潰瘍が発生します。 夜間は胃の内容物が少なくなり、胃酸の粘膜への刺激が直接的になることや、胃酸分泌が相対的に高まる時間帯があるため、特に十二指腸潰瘍では痛みが出やすくなります。
その他: ストレスや喫煙も潰瘍のリスクを高めます。
1-3. 機能性ディスペプシア(FD)
機能性ディスペプシアは、胃のもたれ、早期満腹感、みぞおちの痛みや灼熱感などのつらい症状が続いているにもかかわらず、内視鏡検査(胃カメラ)などを行っても、胃潰瘍やがんのような器質的な異常が見つからない状態を指します。
主な症状:
食後のもたれ感
食事開始後すぐに満腹になる感じ(早期満腹感)
みぞおちの痛み(心窩部痛)
みぞおちの焼けるような感じ(心窩部灼熱感)
夜間に症状を感じる方もいます。
メカニズム: 原因は一つではなく、胃の運動機能の異常(食べ物を十二指腸へ送り出す動きが悪い、胃が十分に広がらないなど)、内臓の知覚過敏(わずかな刺激にも痛みを感じやすい)、ストレスや不安などの心理社会的要因、生活習慣の乱れ(不規則な食事、睡眠不足)などが複雑に関与していると考えられています。
その他: 感染性胃腸炎の後に発症することもあります。
1-4. 急性胃炎・慢性胃炎
急性胃炎は、何らかの原因で胃の粘膜に急性の炎症が起きた状態です。慢性胃炎は、長期間にわたって胃の粘膜に炎症が続いている状態を指します。
主な症状:
急な胃痛、みぞおちの不快感
吐き気、嘔吐
食欲不振、膨満感
(ひどい場合は吐血や下血)
慢性胃炎では無症状のこともありますが、胃もたれや食後の不快感、空腹時の痛みなどが現れることもあります。
メカニズム: 急性胃炎の原因は、暴飲暴食、アルコールの過剰摂取、香辛料などの刺激物の摂取、ストレス、薬剤(特にNSAIDs)、細菌やウイルスの感染など多岐にわたります。 慢性胃炎の最も多い原因はピロリ菌感染です。 これらの原因により胃粘膜が直接刺激されたり、防御機能が低下したりすることで炎症が起こり、夜間でも急な痛みとして現れることがあります。
1-5. 胆石症・胆嚢炎
胆石症は、肝臓で作られた胆汁を一時的に貯蔵・濃縮する袋状の臓器である「胆嚢」や、胆汁の通り道である「胆管」に結石(胆石)ができる病気です。胆嚢炎は、主に胆石が原因で胆嚢に炎症が起きた状態を指します。
主な症状:
右上腹部痛(みぞおちのやや右側、肋骨の下あたり)やみぞおちの痛み。しばしば背中や右肩に放散する痛み。
吐き気、嘔吐
発熱、悪寒(胆嚢炎の場合)
黄疸(皮膚や白目が黄色くなる:胆管に結石が詰まった場合など)
メカニズムと夜間・食後に症状が出やすい理由: 胆石が胆嚢の出口や胆管を塞ぐと、胆汁の流れが滞り、胆嚢内圧が上昇して強い痛み(胆石発作)を引き起こします。脂肪分の多い食事を摂取すると、胆嚢が収縮して胆汁を排出しようとするため、食後数時間(特に夜間)に発作が起こりやすい傾向があります。胆嚢炎では、これに細菌感染が加わります。
1-6. 急性膵炎
急性膵炎は、消化酵素を分泌する膵臓に急激な炎症が起こる病気です。重症化すると命に関わることもあります。
主な症状:
上腹部の持続的な激しい痛み(しばしば背中に抜けるような痛み)
吐き気、嘔吐
発熱
腹部膨満感
(重症化すると呼吸困難、意識障害など)
メカニズム: 主な原因はアルコールの多飲と胆石です。何らかの理由で膵臓内で消化酵素が活性化され、膵臓自体を消化し始めてしまうことで炎症が起こります。飲酒後や食事後に発症することが多く、夜間に激痛で発症することも珍しくありません。
その他: 緊急の治療が必要となることが多い疾患です。
1-7. その他
ストレス: 過度なストレスは自律神経のバランスを乱し、胃酸の分泌を過剰にしたり、胃の運動機能を低下させたりして、胃痛を引き起こすことがあります。夜間は日中の緊張から解放される一方で、不安や考え事が頭をよぎりやすく、ストレス性の胃痛が現れることもあります。
食事内容・時間: 脂質の多い食事、香辛料などの刺激物、消化の悪い食べ物は胃に負担をかけます。また、就寝直前に食事をとると、睡眠中も胃が活発に働かなければならず、胃もたれや胃痛、胃食道逆流症の原因となります。
便秘: 意外に思われるかもしれませんが、便秘によって腸の動きが悪くなると、その影響が胃に及び、胃の不快感や痛みとして感じられることがあります。
稀な疾患: 頻度は低いですが、胃がんなどの悪性腫瘍も、進行すると夜間痛を含む持続的な痛みの原因となることがあります。早期発見が重要です。
第2章:こんな症状は要注意!すぐに医療機関を受診すべきサイン
夜中の胃痛でも、様子を見ても良い場合と、すぐに医療機関を受診すべき場合があります。以下の症状が見られる場合は、自己判断せずに速やかに医療機関(夜間であれば救急外来も検討)を受診してください。
我慢できないほどの激しい痛み、冷や汗を伴う痛み: 胃潰瘍・十二指腸潰瘍の穿孔(穴が開く)、急性膵炎、胆嚢炎、絞扼性イレウス(腸閉塞)など、緊急手術が必要な病気の可能性があります。
吐血(赤い血、あるいはコーヒーかすのような黒っぽいものを吐く)、下血(真っ黒な便=タール便、あるいは赤い血が混じった便): 胃や十二指腸からの出血が疑われます。出血量が多い場合は命に関わることもあります。
急激な体重減少(意図していないのに数ヶ月で数キロ以上減る): 悪性腫瘍(がん)の可能性も考慮する必要があります。
発熱を伴う胃痛: 胆嚢炎、膵炎、感染性胃腸炎など、感染や強い炎症を伴う病気が考えられます。
黄疸(皮膚や白目が黄色くなる): 肝臓、胆嚢、膵臓の病気(胆石、胆管炎、膵炎、がんなど)の可能性があります。
呼吸困難感、胸の圧迫感を伴う場合: 胃痛と症状が似ていますが、心筋梗塞や狭心症といった心臓の病気の可能性も否定できません。特に高齢者や糖尿病、高血圧などの持病がある方は注意が必要です。
症状が改善せず、むしろ悪化している場合
市販薬を飲んでも効果がない、または一時的にしか効かない場合
これらのサインは、体が発する重要な警告です。見逃さずに適切な対応をとることが大切です。
第3章:夜中の胃痛を和らげるために自分でできること
医療機関を受診するまでのつなぎや、軽度の症状の場合、あるいは予防のために自分でできることもあります。ただし、これらはあくまで対症療法であり、原因を特定し根本的に治療するためには医師の診断が不可欠であることを念頭に置いてください。
3-1. 食生活の見直し
避けるべき食べ物・飲み物:
脂肪分の多い食事: 揚げ物、バラ肉、生クリームなどは消化に時間がかかり、胃に負担をかけます。また、胆嚢を刺激して胆石発作を誘発することもあります。
刺激物: 香辛料(唐辛子、胡椒など)、炭酸飲料、カフェインを多く含むもの(コーヒー、紅茶、エナジードリンクなど)、アルコールは胃酸の分泌を促進したり、胃粘膜を直接刺激したりします。
酸味の強いもの: 柑橘類(みかん、レモンなど)、酢の物などは胃酸過多の症状を悪化させることがあります。
消化の悪いもの: 食物繊維が非常に多い生野菜、きのこ類、豆類などは、摂りすぎると消化に時間がかかり、胃もたれの原因になることがあります。調理法を工夫したり、摂取量を調整したりしましょう。
チョコレートなどの甘いもの: 一部の甘いものは胃酸分泌を促したり、下部食道括約筋を緩めたりする作用があり、胃食道逆流症を悪化させる可能性があります。
推奨される食べ物・飲み物:
消化の良い炭水化物: おかゆ、うどん(煮込みうどんなど)、パン(柔らかいもの)、じゃがいもなど。
脂肪の少ないタンパク質: 鶏むね肉(皮なし)、ささみ、白身魚(たら、かれいなど)、豆腐、卵(半熟卵など消化の良い調理法で)。
温かい飲み物: 白湯、麦茶、カフェインの少ないハーブティー(カモミールティーなど)は胃を温め、リラックス効果も期待できます。
食事のタイミングと量:
就寝2~3時間前までに夕食を済ませる: 就寝時に胃の中に食べ物が残っていると、睡眠中の消化活動が活発になり、胃酸分泌も促され、夜間の胃痛や逆流の原因となります。
腹八分目を心がける、早食いをしない: 食べ過ぎは胃に大きな負担をかけます。ゆっくりよく噛んで食べることで、消化を助け、満腹感も得やすくなります。
3-2. 睡眠環境の改善
寝るときの姿勢:
胃食道逆流症が疑われる場合: 上半身を15~20cm程度高くして寝ると、胃酸の逆流を防ぐ効果が期待できます。枕を重ねたり、ベッドの頭側の脚の下にブロックを置いたり、市販の傾斜枕を利用するのも良いでしょう。
左側臥位(左向きに寝る): 胃の形状から、左側を下にして寝ると胃の内容物が食道へ逆流しにくいとされています。ただし、個人差があります。
寝具の工夫: 体に合ったマットレスや枕を選び、リラックスできる寝姿勢を保つことも大切です。
リラックスできる寝室環境: 適度な温度・湿度を保ち、静かで暗い環境を作ることで、質の高い睡眠が得られやすくなり、ストレス軽減にもつながります。
3-3. ストレスマネジメント
ストレスは自律神経のバランスを崩し、胃の機能を大きく左右します。
ストレスが胃に与える影響の再認識: ストレスを感じると、胃酸の分泌が過剰になったり、逆に胃の動きが悪くなったり、胃粘膜の血流が悪化したりします。
自分に合ったストレス解消法を見つける: 趣味に没頭する時間を作る、適度な運動(ウォーキング、ヨガなど)、音楽を聴く、瞑想や深呼吸をする、親しい人と話すなど、自分なりのリフレッシュ方法を見つけましょう。
十分な睡眠と休息: 質の高い睡眠は、心身の疲労回復だけでなく、自律神経のバランスを整える上でも非常に重要です。
3-4. 市販薬の適切な使用
夜中の急な胃痛に対して、一時的に市販薬を使用することも選択肢の一つです。ただし、原因が特定されていない段階での長期連用は避け、症状が続く場合は必ず医療機関を受診してください。
症状に応じた薬の選び方:
胃酸を抑える薬(制酸薬、H2ブロッカー): 胸焼けや呑酸、空腹時の痛みなど、胃酸過多が疑われる症状に。H2ブロッカーは比較的効果が高いですが、連用には注意が必要です。プロトンポンプ阻害薬(PPI)はより強力に胃酸を抑えますが、日本では一部を除き医師の処方が必要です。
胃粘膜を保護・修復する薬: 胃の粘膜が荒れている、弱っていると感じる場合に。
消化を助ける薬(消化酵素薬): 胃もたれや食べ過ぎによる不快感に。
胃の動きを整える薬(健胃薬、消化管運動改善薬): 胃の動きが悪く、もたれや吐き気がする場合に。
使用上の注意点:
購入時には薬剤師に相談し、自分の症状や体質、他に服用している薬との飲み合わせなどを伝えた上で選びましょう。
添付文書をよく読み、用法・用量を必ず守りましょう。
市販薬を数日間使用しても症状が改善しない、または悪化する場合は、使用を中止し、速やかに医療機関を受診してください。
第4章:消化器内科で行われる検査と診断
夜中の胃痛の原因を正確に突き止めるためには、消化器内科での専門的な検査が不可欠です。ここでは、代表的な検査について説明します。
4-1. 問診
医師が患者さんから症状や生活習慣について詳しくお話を伺います。正確な診断のための非常に重要な情報源です。
症状の詳細: いつから痛むか、どのような痛みか(ズキズキ、シクシク、焼けるような感じなど)、痛む場所、痛みの強さ、痛む時間帯(食前、食後、夜間など)、症状を悪化させるもの・和らげるもの、他に気になる症状(吐き気、胸焼け、便通異常など)
既往歴: これまでにかかった病気、手術歴
服用中の薬: 処方薬、市販薬、サプリメントなどすべて
アレルギー歴
生活習慣: 食事内容、飲酒・喫煙の習慣、睡眠時間、ストレスの状況
家族歴: 血縁者に胃腸の病気やがんの方がいるかなど
4-2. 身体診察
医師が視診、聴診、触診などを行います。
腹部の触診: お腹を押さえて痛む場所、硬さ、しこりの有無などを確認します。
聴診: 聴診器でお腹の音(腸の動き)を確認します。
4-3. 内視鏡検査(胃カメラ)
食道、胃、十二指腸の粘膜の状態を直接カメラで観察する検査です。夜中の胃痛の原因診断において、最も重要な検査の一つと言えます。
観察できること: 炎症の程度、びらん、潰瘍の有無や深さ、ポリープ、がんなどの病変を詳細に観察できます。
生検(組織検査): 疑わしい部分が見つかった場合、その組織の一部を採取し(生検)、顕微鏡で詳しく調べる病理検査を行うことができます。これにより、良性・悪性の鑑別や炎症の種類の特定が可能です。
ピロリ菌検査: 内視鏡検査時に胃の粘膜を採取して、ピロリ菌の有無を調べることもできます(迅速ウレアーゼテストなど)。
苦痛の軽減: 検査時の苦痛を和らげるために、鎮静剤(眠くなる薬)を使用することも可能です。多くの医療機関で対応していますので、不安な方は事前に相談してみましょう。
4-4. 腹部超音波検査(エコー検査)
超音波を使って、肝臓、胆嚢、膵臓、腎臓などの腹部臓器の状態を調べる検査です。
観察できること: 胆石の有無、胆嚢の壁の厚さ(胆嚢炎のサイン)、膵臓の腫れ(膵炎のサイン)、肝臓や膵臓の腫瘍などを確認できます。
特徴: 放射線被ばくの心配がなく、体に負担の少ない検査です。痛みもありません。
4-5. 血液検査
全身状態の評価や、特定の病気の手がかりを得るために行います。
主な検査項目:
炎症反応: 白血球数やCRP(C反応性タンパク)の値で、体内に炎症があるかどうか、その程度が分かります。
貧血の有無: 赤血球数やヘモグロビン値で、潰瘍などからの出血がないか確認します。
肝機能検査(AST、ALT、γ-GTPなど): 肝臓の異常がないか調べます。
膵酵素(アミラーゼ、リパーゼなど): 膵炎の診断に重要です。
腫瘍マーカー: がんの補助診断として測定することがあります。
4-6. ピロリ菌検査
ピロリ菌は、胃潰瘍・十二指腸潰瘍、慢性胃炎、そして胃がんの重要なリスク因子です。感染の有無を調べることは非常に重要です。
検査方法:
内視鏡を使う方法: 迅速ウレアーゼテスト、組織鏡検法、培養法
内視鏡を使わない方法: 尿素呼気試験(検査薬を飲んで呼気を調べる)、抗体検査(血液や尿で調べる)、便中抗原検査(便で調べる)
陽性の場合: ピロリ菌が陽性と診断された場合は、除菌治療(抗生物質と胃酸を抑える薬を1週間服用)が推奨されます。
4-7. その他(必要に応じて)
症状や他の検査結果からさらに詳しい情報が必要な場合、以下のような検査が行われることもあります。
腹部X線検査(レントゲン検査): 腸閉塞や消化管穿孔の有無などを大まかに確認できます。
腹部CT検査・MRI検査: より詳細な画像情報が必要な場合(腫瘍の広がりや、超音波では見えにくい膵臓の評価など)に行われます。
24時間食道pHモニタリング: 胃食道逆流症の確定診断や、薬の効果判定が難しい場合に行われる専門的な検査です。細いチューブを鼻から食道に挿入し、24時間の食道内のpH(酸性度)を測定します。
第5章:夜中の胃痛に対する消化器内科での治療法
検査によって夜中の胃痛の原因が特定されれば、それに応じた治療が行われます。
5-1. 胃食道逆流症(GERD)の治療
生活習慣の改善指導: 最も基本となる治療です。体重管理、禁煙、アルコールや刺激物の制限、就寝前の食事を避ける、上半身を高くして寝るなどの指導が行われます。
薬物療法:
胃酸分泌抑制薬: プロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2ブロッカーが中心となります。胃酸の分泌を強力に抑え、食道の炎症を改善し、症状を和らげます。P-CAB(カリウムイオン競合型アシッドブロッカー)という新しいタイプの強力な胃酸分泌抑制薬も用いられます。
消化管運動機能改善薬: 胃からの食物の排出を促し、逆流を軽減する効果が期待できます。
粘膜保護薬: 食道粘膜を保護し、炎症の改善を助けます。
外科手術: 薬物療法で効果が不十分な場合や、食道裂孔ヘルニアが大きい場合などには、腹腔鏡下噴門形成術などの手術が検討されることもあります。
5-2. 胃潰瘍・十二指腸潰瘍の治療
薬物療法:
胃酸分泌抑制薬: PPIやH2ブロッカーを使用し、胃酸の分泌を抑えて潰瘍の治癒を促します。
粘膜保護薬: 潰瘍部分を保護し、治癒を助けます。
ピロリ菌の除菌治療: ピロリ菌感染が確認された場合は、再発予防のために除菌治療が強く推奨されます。2種類の抗生物質と胃酸分泌抑制薬を1週間服用します。
原因薬剤の中止・変更: NSAIDsが原因の場合は、可能であれば中止するか、他の薬剤に変更します。必要な場合は、胃粘膜を保護する薬(プロスタグランジン製剤など)を併用します。
出血や穿孔(穴が開くこと)がある場合: 緊急の内視鏡的止血術や外科手術が必要になることがあります。
5-3. 機能性ディスペプシア(FD)の治療
原因が多岐にわたるため、個々の患者さんの状態に合わせた治療が行われます。
生活習慣の改善、食事療法、ストレス管理: まずは食事内容の見直し、規則正しい生活、十分な睡眠、ストレスの軽減が重要です。
薬物療法:
消化管運動機能改善薬(アコチアミドなど): 胃の運動を活発にし、胃もたれや早期満腹感を改善します。
胃酸分泌抑制薬: みぞおちの痛みや灼熱感がある場合に有効なことがあります。
抗不安薬、抗うつ薬: ストレスや不安が強く関与している場合に、少量から使用することがあります。
心理療法: 認知行動療法などが有効な場合もあります。
5-4. 急性胃炎の治療
原因の除去: アルコール、刺激物、原因薬剤など、原因が明らかな場合はそれらを取り除きます。
食事療法: 症状が強い場合は一時的に絶食し、その後は消化の良いおかゆなどから徐々に食事を再開します。
薬物療法: 胃酸分泌抑制薬、粘膜保護薬、制吐薬(吐き気止め)などが症状に応じて使用されます。
5-5. 胆石症・胆嚢炎の治療
無症状の胆石: 症状がなければ、基本的には経過観察となります。
胆石発作: 鎮痛薬(NSAIDsや鎮痙薬)で痛みを和らげます。
急性胆嚢炎: 入院の上、絶食、輸液、抗生物質の投与を行います。炎症が強い場合は、緊急手術や経皮経肝胆嚢ドレナージ(皮膚から針を刺して胆嚢にたまった胆汁を排出する処置)が必要になることもあります。
根本治療: 症状を繰り返す胆石症や胆嚢炎に対しては、胆嚢摘出術が標準的な治療法です。多くは腹腔鏡下手術で行われ、体への負担が少ないです。
内視鏡的治療: 総胆管結石(胆管に結石が詰まった状態)の場合は、内視鏡を使って結石を除去する治療(ERCP関連手技)が行われます。
5-6. 急性膵炎の治療
原則として入院治療が必要です。
保存的治療: 絶食(膵臓を休ませるため)、十分な輸液(脱水の補正と循環の安定)、鎮痛薬による痛みのコントロールが基本です。
重症の場合: 集中治療室(ICU)での管理が必要となることもあります。蛋白分解酵素阻害薬の投与や、感染予防のための抗生物質投与などが行われます。
原因に対する治療: 胆石が原因の場合は、炎症が落ち着いた後に胆嚢摘出術や内視鏡的結石除去が行われます。アルコール性が原因の場合は、厳格な禁酒が必要です。
まとめ:つらい夜中の胃痛、我慢せずに専門医にご相談を
夜中に胃痛で目が覚めるという症状は、単なる食べ過ぎや一時的なストレスが原因であることもあれば、背後に治療が必要な消化器系の病気が隠れていることもあります。自己判断で放置したり、市販薬だけで長期間様子を見たりすることは、病気の発見を遅らせ、重症化させてしまうリスクも伴います。
今回ご紹介したように、夜中の胃痛の原因は多岐にわたります。生活習慣の改善で予防・軽減できる部分もありますが、症状が続く場合や、「いつもと違う」「これはおかしい」と感じる場合は、ためらわずに消化器内科を受診してください。
消化器内科では、丁寧な問診と適切な検査によって原因を正確に診断し、それぞれの病状に合わせた最適な治療法を提案します。内視鏡検査も、以前に比べて格段に苦痛の少ない方法で受けられるようになっています。
つらい夜中の胃痛を我慢することは、決して良いことではありません。専門医に相談し、適切な診断と治療を受けることで、穏やかな夜と健康な毎日を取り戻しましょう。この記事が、その一歩を踏み出すためのお役に立てれば幸いです。
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