胆石症:いつ治療が必要になるのか?〜症状から治療法、予防まで徹底解説〜
- 院長
- 1月10日
- 読了時間: 11分
はじめに:沈黙の臓器、胆のうに潜む「胆石」の正体
私たちの消化器系において、肝臓の下に位置する小さな袋状の臓器、それが「胆のう」です。胆のうは、肝臓で作られる消化液である「胆汁」を一時的に貯蔵し、濃縮する役割を担っています。食事が十二指腸に送られると、胆のうは収縮して胆汁を排出し、脂肪の消化吸収を助けます。
この胆のうや胆管の中に、砂粒のようなものから鶏卵大にまで成長する結石が形成されることがあります。これが「胆石」です。胆石は非常にありふれた病気で、健康診断のエコー検査などで偶然発見されることも少なくありません。しかし、そのすべてが治療を必要とするわけではありません。
では、一体どのような場合に胆石の治療が必要となるのでしょうか?本記事では、胆石の基本的な知識から、治療が必要となる症状や条件、具体的な治療法、さらには予防策まで、多角的に掘り下げて解説します。胆石と診断された方、あるいは胆石の疑いがあると感じる方は、ぜひ最後までお読みください。

1. 胆石とは?その種類と形成メカニズム
胆石は、その成分によって主に以下の3つのタイプに分類されます。
1.1. コレステロール胆石
日本人に最も多く見られるタイプで、胆石全体の約70〜80%を占めると言われています。胆汁中のコレステロールが過飽和状態になり、結晶化して結石となることで形成されます。食生活の欧米化に伴い増加傾向にあります。
1.2. 色素胆石(ビリルビンカルシウム石、黒色石)
胆汁の主成分の一つであるビリルビンと、カルシウムが結合してできる結石です。
ビリルビンカルシウム石: 胆管炎など、細菌感染が関与して形成されることが多いとされます。
黒色石: 溶血性貧血など、赤血球が大量に破壊される病気や、アルコール性肝硬変などで形成されやすいと言われています。
1.3. 混合石
コレステロールと色素成分が混じり合ってできた結石です。多くの胆石は純粋な単一成分ではなく、複数の成分が混ざり合った「混合石」であることがほとんどです。
2. 胆石が見つかったら、すぐに治療が必要?〜無症状胆石の考え方〜
健康診断や他の病気の検査で、偶然胆石が見つかるケースは少なくありません。このような、症状を全く伴わない胆石を「無症状胆石(サイレントストーン)」と呼びます。
2.1. 無症状胆石の対処法
一般的に、無症状胆石の場合、すぐに治療を開始する必要はありません。多くの医師は、以下のような方針をとることが多いです。
経過観察: 定期的な超音波検査などで胆石の大きさや数、位置の変化、新たな症状の出現がないかを確認します。
生活習慣の見直し: 胆石の悪化や症状の発現を防ぐため、バランスの取れた食生活や適度な運動など、生活習慣の改善を指導されることがあります。
ただし、無症状胆石であっても、以下のような特定の状況では、予防的な治療が検討されることがあります。
胆石のサイズが大きい場合(特に3cm以上): 将来的に症状を発現するリスクや、胆のう癌との関連性が指摘されることがあるためです。
胆のう壁の肥厚や炎症が認められる場合: 慢性的な炎症が胆のう癌のリスクを高める可能性が示唆されるためです。
磁器胆のう(Porcelain Gallbladder): 胆のう壁にカルシウムが沈着し、硬く石灰化した状態。胆のう癌のリスクが高いとされており、手術が推奨されることが多いです。
膵管と胆管の合流異常がある場合: 胆汁と膵液が逆流しやすくなり、急性膵炎や胆のう癌のリスクが高まるためです。
ピルを服用中の女性や移植手術を予定している方: ホルモン剤の服用や免疫抑制剤の使用が、胆石発作のリスクを高める可能性があるためです。
長期間宇宙滞在を予定している宇宙飛行士など、特定の職業の人: 医療機関へのアクセスが困難な状況下での発作を防ぐためです。
これらの判断は、個々の患者さんの状態やリスクを総合的に評価して行われるため、必ず専門医と相談することが重要です。
3. 「治療が必要」となる症状と合併症
胆石の約7〜8割は無症状と言われますが、残りの2〜3割は何らかの症状を呈し、治療が必要となることがあります。胆石による症状は多岐にわたりますが、特に注意すべきは以下の症状です。
3.1. 典型的な症状
胆石疝痛(たんせきせんつう): 胆のうが収縮する際に、結石が胆のうの出口や胆管に詰まることで生じる激しい痛みです。
特徴: 右上腹部からみぞおちにかけて突然現れる強い痛み。背中や右肩に放散することもあります。
誘発因子: 脂肪の多い食事の後や、食後に起こりやすい傾向があります。
持続時間: 数分から数時間続くことが多く、痛みが引いても重苦しい感じが残ることがあります。
随伴症状: 吐き気、嘔吐、冷や汗などを伴うこともあります。
消化不良症状: 胆汁の流れが悪くなることで、脂肪の消化が妨げられ、食後の胃もたれ、膨満感、吐き気、下痢などの消化不良症状が現れることがあります。
3.2. 緊急性の高い合併症と症状
胆石が胆管に詰まったり、胆のうに炎症を起こしたりすると、重篤な合併症を引き起こし、緊急の治療が必要となることがあります。
急性胆のう炎: 胆石が胆のうの出口に嵌頓(かんとん)し、胆汁がうっ滞することで胆のうに炎症が起こる病気です。
症状: 右上腹部の持続的な激痛、発熱(38℃以上)、悪寒、吐き気、嘔吐。痛みが引かず、悪化していくのが特徴です。
急性胆管炎: 胆石が総胆管に詰まり、胆汁の流れが滞ることで、胆管に細菌感染が生じる病気です。
症状: 高熱(39℃以上)、悪寒戦慄(ガタガタ震えるような強い寒気)、右上腹部痛、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)。「シャーコーの3徴」と呼ばれる典型的な症状です。重症化すると意識障害や血圧低下を伴う敗血症性ショックに至ることもあり、非常に危険な状態です。
急性膵炎: 総胆管に胆石が詰まり、膵液の排出も妨げられることで、膵臓自身が消化液によって自己消化されてしまう病気です。
症状: みぞおちから背中にかけての強い痛み、吐き気、嘔吐、発熱。痛みが非常に強く、脂汗をかくこともあります。重症化すると多臓器不全に至ることもあります。
胆石イレウス: 稀な合併症ですが、胆石が胆のう壁を突き破り、腸管に侵入して腸閉塞(イレウス)を引き起こすことがあります。
症状: 腹痛、腹部膨満、吐き気、嘔吐、便秘。
これらの合併症は命に関わることもあるため、上記のような症状が現れた場合は、迷わず速やかに医療機関を受診してください。
4. 胆石の治療法:選択肢とメリット・デメリット
胆石の治療法は、胆石の種類、大きさ、位置、症状の有無、患者さんの全身状態によって異なります。主な治療法は以下の通りです。
4.1. 手術療法:胆のう摘出術
症状のある胆石症に対する最も確実な治療法です。
術式: 胆石が胆のう内で形成されることがほとんどのため、胆石のある胆のうごと摘出します。胆のうを摘出しても、肝臓から直接胆汁が十二指腸に流れるようになるため、消化機能に大きな影響はありません。
種類:
腹腔鏡下胆のう摘出術: 現在主流となっている方法です。お腹に数カ所小さな穴を開けて内視鏡や手術器具を挿入し、モニターを見ながら手術を行います。
メリット: 傷が小さく目立たない、術後の痛みが少ない、回復が早い、入院期間が短い(通常数日)。
デメリット: 高度な技術を要する、癒着がひどい場合や術中に予期せぬ出血などがあった場合は開腹手術に移行する可能性がある。
開腹胆のう摘出術: 腹腔鏡手術が困難な場合や、緊急時、複雑な症例で選択されます。
メリット: 広い術野を確保できるため、安全性が高い。
デメリット: 傷が大きい、術後の痛みが強い、回復に時間がかかる、入院期間が長い。
手術の適応:
胆石発作を繰り返す場合
急性胆のう炎、急性胆管炎、急性膵炎などの合併症を起こした場合
無症状胆石でも、前述の「予防的な治療が検討されるケース」に該当する場合
胆のう癌が疑われる場合
4.2. 内視鏡治療(ERCP:内視鏡的逆行性胆管膵管造影)
主に胆管結石(総胆管結石)に対して行われる治療法です。口から内視鏡を挿入し、十二指腸乳頭部から胆管内にカテーテルを挿入して、結石を除去します。
術式: 胆管の出口を切開したり、バルーンやバスケットを用いて結石を取り出したりします。
メリット: 開腹手術が不要、体への負担が少ない。
デメリット: 胆管結石に限定される、再発のリスクがある、稀に膵炎などの合併症を起こすことがある。
4.3. 薬物療法(溶解療法)
コレステロール胆石の一部に適用されることがあります。
薬剤: ウルソデオキシコール酸などの胆汁酸製剤を服用し、胆石を溶かす方法です。
適応:
コレステロール胆石であること(CT検査などで確認)
結石の大きさが比較的小さい(1cm以下が目安)
胆のうの機能が正常であること
メリット: 手術が不要。
デメリット: 治療に時間がかかる(数ヶ月〜数年)、全ての胆石が溶けるわけではない(成功率30〜50%程度)、治療を中止すると再発のリスクが高い。色素胆石には効果がありません。
現状: 成功率が低く、再発率も高いため、単独で選択されることは稀で、手術が困難な場合などに補助的に用いられることが多いです。
4.4. 体外衝撃波胆石破砕術(ESWL)
体外から衝撃波を当てて胆石を細かく砕き、自然排泄を促す治療法です。
適応:
コレステロール胆石
結石の数が少ない(単発または数個)
結石の大きさが適切(2cm以下が目安)
胆のうの機能が正常であること
メリット: 非侵襲的。
デメリット: すべての胆石に適用できるわけではない、破砕された胆石が胆管に詰まるリスクがある、複数回の治療が必要な場合がある、再発のリスクがある。
現状: 単独での治療効果が不十分なことが多く、現在はあまり積極的には行われていません。薬物療法と併用されることもあります。
5. 胆石症の診断方法
胆石の診断には、主に以下の検査が用いられます。
腹部超音波検査(エコー): 最も簡便で、痛みもなく、胆石の有無や大きさ、胆のうの状態を高い精度で確認できるため、スクリーニング検査として広く用いられます。
CT検査: 胆石の石灰化の有無や周囲の臓器との位置関係、合併症の有無などを詳細に評価できます。
MRI検査(MRCP): 胆管内の胆石や胆道の詳細な構造を非侵襲的に描出するのに優れています。
血液検査: 炎症反応(CRP、白血球数)、肝機能(AST、ALT、ALP、γ-GTP、T-Bil)、膵酵素(アミラーゼ、リパーゼ)などを調べ、胆のう炎や胆管炎、膵炎などの合併症の有無や重症度を評価します。
内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP): 診断と治療を兼ねた検査で、胆管や膵管の詳細な状態を把握できます。
6. 胆石の予防と日常生活での注意点
胆石の形成には、遺伝的要因や性差(女性に多い)、加齢なども関与しますが、生活習慣も大きく影響します。
食生活の改善:
脂肪の摂りすぎに注意: 脂肪の多い食事は胆のうを強く収縮させ、胆石発作を誘発する可能性があります。バランスの取れた食事を心がけましょう。
食物繊維を積極的に摂る: 野菜、果物、海藻類など、食物繊維は胆汁酸の排泄を促し、コレステロールのバランスを整えるのに役立ちます。
規則正しい食事: 長時間の絶食は胆汁を濃縮させ、胆石形成のリスクを高めます。朝食を抜かない、間食を控えるなど、規則正しい食習慣を心がけましょう。
急激なダイエットは避ける: 極端なカロリー制限や短期間での大幅な体重減少は、胆汁の成分バランスを崩し、胆石ができやすくなることがあります。
適度な運動: 肥満は胆石のリスク因子です。適度な運動は肥満の解消に役立ち、胆石の予防にもつながります。
水分補給: 十分な水分補給は、胆汁の粘度を下げ、胆石の形成を抑制する効果が期待できます。
便秘の解消: 便秘は胆汁酸の腸肝循環に影響を与える可能性があるため、食物繊維の摂取や水分補給で便秘を解消しましょう。
ストレスの管理: ストレスは自律神経に影響を与え、胆のうの働きにも影響を及ぼす可能性があります。
これらの予防策は、あくまで胆石の発生リスクを低減させるためのものであり、すでに胆石がある場合は必ず医師の指示に従ってください。
7. 胆石と上手に付き合うために
胆石は「沈黙の臓器」である胆のうに潜むため、気づかずに過ごしている人も多くいます。しかし、一度症状が現れると、非常に強い痛みや重篤な合併症を引き起こす可能性があります。
「胆石が見つかったからといって、すぐに治療が必要なわけではない」ということを理解しつつも、万が一の症状発現に備え、ご自身の胆石の状態を正確に把握しておくことが重要です。
定期的な健康診断の受診: 特に腹部超音波検査は胆石の早期発見に非常に有効です。
症状に注意を払う: 右上腹部痛、背中の痛み、発熱、黄疸、吐き気などの症状が現れたら、すぐに医療機関を受診しましょう。
医師との綿密な相談: 無症状胆石であっても、年齢、基礎疾患、家族歴、ライフスタイルなどを考慮し、予防的な治療が必要かどうか、医師と十分に話し合うことが大切です。
まとめ:あなたの胆石、今どうするべきか?
胆石は、その存在が判明しても、すぐに慌てる必要はありません。重要なのは、それが「無症状胆石」なのか、それとも「症状を伴う胆石」なのかを見極めることです。そして、症状がある場合は、どのような合併症のリスクがあるのかを理解し、適切なタイミングで適切な治療を受けることです。
本記事で解説した情報を参考に、ご自身の胆石の状態について理解を深め、不安な点があれば迷わず専門医にご相談ください。早期の診断と適切な管理が、健康な日常生活を守る第一歩となります。
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