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バレット食道とは?逆流性食道炎との違い、食道がんリスク、最新治療法まで徹底解説

  • 院長
  • 2024年4月25日
  • 読了時間: 13分

更新日:3 日前


「最近、胸焼けがひどい」「健康診断の内視鏡検査で『バレット食道』の疑いがあると言われた」 このような経験はありませんか?

バレット食道は、主に長期間にわたる胃食道逆流症(GERD)によって引き起こされる食道の変化であり、食道がん(特に食道腺がん)のリスクを高める可能性がある「前がん病変」として注目されています。

しかし、名前を聞いたことがあっても、具体的にどのような状態なのか、放置するとどうなるのか、どうすれば良いのか、不安に感じる方も多いでしょう。

この記事では、「バレット食道」について、その原因、症状、逆流性食道炎との関係、食道がんのリスク、そして最新の診断・治療法に至るまで、専門的な情報を分かりやすく、網羅的に解説します。この記事を読めば、バレット食道への理解が深まり、ご自身の健康管理に役立てられるはずです。

この記事でわかること

  • バレット食道がどのような状態か

  • バレット食道の原因とリスク因子

  • バレット食道の症状(多くは無症状であること)

  • 逆流性食道炎(GERD)との深い関係

  • バレット食道と食道がん(食道腺がん)のリスク

  • バレット食道の診断方法(内視鏡検査と生検)

  • バレット食道の治療方針(経過観察、薬物療法、内視鏡治療)

  • 日常生活で気をつけるべきこと(予防と管理)


1. バレット食道とは? - 食道粘膜の変化を理解する


まず、バレット食道がどのような状態なのかを正確に理解しましょう。

正常な食道 vs バレット食道

  • 正常な食道: 私たちの食道の粘膜は、「扁平上皮(へんぺいじょうひ)」と呼ばれる、平らで丈夫な細胞で覆われています。これは、食べ物が通過する際の物理的な刺激には強い構造です。

  • バレット食道: ところが、胃から逆流してきた胃酸や消化液に長期間さらされると、食道の粘膜はこの酸に対して防御力の弱い扁平上皮から、胃の粘膜に近い「円柱上皮(えんちゅうじょうひ)」というタイプの細胞に置き換わってしまうことがあります。この扁平上皮が円柱上皮に変化(化生:かせい)した状態を「バレット食道」と呼びます。


なぜ変化するのか?

これは、食道が胃酸という過酷な環境に繰り返しさらされる中で、少しでも酸に強い細胞に変化することで自身を守ろうとする、一種の防御反応と考えられています。しかし、この変化した円柱上皮は、正常な食道には存在しない組織であり、将来的にがん化するリスクを秘めているのです。


バレット食道の範囲による分類

バレット食道は、食道下部からどのくらいの長さ(範囲)にわたって円柱上皮化生が見られるかによって、以下のように分類されることがあります。

  • SSBE (Short Segment Barrett's Esophagus): 円柱上皮化生の範囲が短い(通常3cm未満)もの。

  • LSBE (Long Segment Barrett's Esophagus): 円柱上皮化生の範囲が長い(通常3cm以上)もの。

一般的に、LSBEの方がSSBEよりも食道がんのリスクが高いと考えられていますが、SSBEでもリスクがゼロというわけではありません。





2. バレット食道の原因とリスク因子 - なぜ起こるのか?


バレット食道の最も大きな原因は、**長期間にわたる胃食道逆流症(GERD: Gastroesophageal Reflux Disease)**です。


胃食道逆流症(GERD)とは?

胃の中の内容物(特に胃酸やペプシンなどの消化液)が食道へ逆流し、それによって食道の粘膜が炎症を起こしたり、胸焼けなどの不快な症状を引き起こしたりする状態です。


GERDがバレット食道を引き起こすメカニズム

  1. 胃酸などが食道へ逆流する。

  2. 食道粘膜(扁平上皮)が繰り返し胃酸にさらされ、炎症を起こす(逆流性食道炎)。

  3. 炎症が慢性化し、修復プロセスが繰り返されるうちに、食道粘膜が酸に強い円柱上皮へと変化(化生)する。

  4. この状態がバレット食道となる。


その他のリスク因子

GERD以外にも、以下のような要因がバレット食道の発症リスクを高めると考えられています。

  • 年齢: 高齢になるほどリスクが高まります。

  • 性別: 男性に多い傾向があります(女性の数倍とも言われます)。

  • 人種: 白人に多いとされていますが、日本人でも増加傾向にあります。

  • 肥満: 特に内臓脂肪型の肥満は、腹圧を上昇させ胃酸逆流を引き起こしやすくします。

  • 喫煙: 喫煙は食道下部の括約筋を緩め、胃酸の逆流を助長します。また、発がんリスクも高めます。

  • 食道裂孔ヘルニア: 胃の一部が胸腔内にはみ出す状態で、胃酸逆流の原因となります。

  • 遺伝的要因: 家族にバレット食道や食道腺がんの人がいる場合、リスクが高まる可能性があります。

  • 長期にわたるGERD症状: 胸焼けなどの症状が5年以上続いている場合、リスクが高まります。

これらのリスク因子が複数重なると、バレット食道の発症リスクはさらに高まります。


3. バレット食道の症状 - 実は症状がないことが多い?


意外に思われるかもしれませんが、バレット食道そのものには特有の症状はありません。 食道粘膜が変化しただけでは、痛みや違和感を感じることはほとんどないのです。

では、なぜバレット食道が見つかるのか?

多くの場合、バレット食道は、その原因である胃食道逆流症(GERD)の症状(胸焼け、呑酸(どんさん:酸っぱいものが上がってくる感じ)、胸の痛み、咳、喉の違和感など)を調べるための**内視鏡検査(胃カメラ)**や、健康診断の内視鏡検査などで偶然発見されます。

つまり、「バレット食道だから〇〇の症状が出る」というよりは、「逆流性食道炎の症状があって検査したら、バレット食道も見つかった」というケースが多いのです。

注意点

  • 症状がないから安心ではない: バレット食道自体に症状がなくても、食道がんのリスクは存在します。

  • GERD症状を放置しない: 慢性的な胸焼けなどのGERD症状がある場合は、自己判断せずに消化器内科を受診し、内視鏡検査を受けることが重要です。これがバレット食道や、さらには早期の食道がんを発見するきっかけになります。


4. バレット食道と食道がんの関係 - 最大の懸念点


バレット食道が注目される最大の理由は、食道がん(特に食道腺がん)のリスクを高める前がん病変であるという点です。

食道がんの種類

食道がんには大きく分けて2つのタイプがあります。

  1. 扁平上皮がん: 正常な食道粘膜(扁平上皮)から発生するがんで、以前は日本の食道がんの大部分を占めていました。主な原因は喫煙と飲酒です。

  2. 腺がん: バレット食道の粘膜(円柱上皮)から発生するがんです。欧米では食道がんの主流であり、日本でも食生活の欧米化や肥満の増加に伴い、近年増加傾向にあります。


バレット食道から食道腺がんへのステップ

バレット食道がすぐにがんになるわけではありません。多くの場合、以下のような段階を経てがん化すると考えられています。


バレット食道(化生) → 異形成(いけいせい)のないバレット食道 → 低悪性度異形成 → 高悪性度異形成 → 食道腺がん

  • 異形成(Dysplasia): 細胞の形や並び方に異常(がんになる前の顔つきの変化)が見られる状態です。「低悪性度」と「高悪性度」があり、高悪性度の方ががん化するリスクが高いとされます。

がん化のリスクはどのくらい?

バレット食道と診断された人すべてが食道がんになるわけではありません。バレット食道から年間に食道腺がんが発生するリスクは、約0.1~0.5%程度と報告されています。これは、決して高い確率ではありませんが、一般人口と比較すると数十倍高いリスクとなります。

特に、LSBE(広範囲型)や、生検で「異形成」が見つかった場合は、より注意深い経過観察や治療が必要となります。


やはりがん化で一番のリスクはLSBEです。これは欧米人に多く見られるタイプです。

欧米人にはピロリ感染が少なく過酸の状態が続くからです。

一方日本人にはピロリ感染が多く、従ってSSBEが多く見られました。

だからバレットと発がんには関連性が少なかったのです。


SSBEは発がんについては余り考える必要は有りません。

ただ、最近はピロリ陰性の人が増えてきましたのでLSBEも

時々見かけるようになりました。



5. バレット食道の診断 - 内視鏡検査と生検が鍵


バレット食道の診断は、主に**上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)**によって行われます。

1. 内視鏡検査(胃カメラ)

口または鼻から細いスコープを挿入し、食道、胃、十二指腸の内部を直接観察します。

  • 観察ポイント:

    • 色調の変化: 正常な食道の粘膜は白っぽいピンク色ですが、バレット食道の粘膜(円柱上皮)は胃の粘膜に似た**赤みがかったオレンジ色(サーモンピンク色)**に見えます。

    • 範囲の確認: 食道と胃の境界(食道胃接合部)から、どれくらいの長さ(範囲)にわたってこの色調変化が見られるかを確認します(SSBEかLSBEかの判断)。

    • 粘膜の凹凸や異常: 異形成や早期がんが存在すると、粘膜にわずかな隆起や陥凹、不整な血管パターンなどが認められることがあります。

  • 特殊光観察(NBIなど): 通常の光だけでなく、特定の波長の光(狭帯域光観察:NBIなど)を用いて観察することで、粘膜表面の微細な血管構造や模様を強調し、異形成や早期がんの発見率を高めることができます。


2. 生検(組織検査)

内視鏡検査でバレット食道が疑われる部位や、異形成・がんが疑われる異常な部分が見つかった場合、その組織の一部を鉗子(かんし)で採取します。これを生検といいます。

  • 目的:

    • 確定診断: 採取した組織を顕微鏡で詳しく調べ、円柱上皮化生があることを確認し、バレット食道の診断を確定します。

    • 異形成(Dysplasia)の有無と程度の評価: 細胞の顔つきの変化(異形成)があるか、ある場合はその程度(低悪性度か高悪性度か)を評価します。これが治療方針を決定する上で非常に重要です。

    • がん細胞の有無の確認: がん細胞が含まれていないかを確認します。

内視鏡で「バレット食道のように見える」だけでは確定診断にはならず、生検による組織学的な確認が必須となります。


6. バレット食道の治療 - 状況に応じたアプローチ


バレット食道の治療方針は、異形成の有無や程度によって大きく異なります。

1. 異形成がない、または低悪性度異形成の場合

  • ① 胃食道逆流症(GERD)の治療(基本):

    • 薬物療法: 胃酸の分泌を強力に抑える**プロトンポンプ阻害薬(PPI)**や、**カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)**が第一選択となります。これにより、胃酸逆流による食道粘膜への刺激を減らし、炎症を抑え、バレット食道の進展や異形成の発生を抑制する効果が期待されます。


      ただし、通常の逆流症状であればH2ブロッカーで殆ど対応可能です。

      開業医は効果や結果をすぐに求めます。評判に関わってくるからです。

      しかし、PPIやP-CABには長期の副作用も報告され始めています。

      最初から強すぎる薬は考え物だと思います。


    • 生活習慣の改善: 肥満の解消(減量)、禁煙、アルコールやカフェイン、脂肪分の多い食事、刺激物の摂取を控える、食後すぐに横にならない、就寝時に頭部を高くする、ベルトを締め付けすぎない、など、胃酸逆流を防ぐための生活改善も重要です。

  • ② 定期的な内視鏡検査によるサーベイランス(経過観察):

    • 異形成がない場合は、通常1~2年に1回程度の内視鏡検査と必要に応じた生検を行い、異形成やがんが発生していないかを定期的にチェックします。

    • 低悪性度異形成の場合は、より頻繁(例:6ヶ月~1年に1回程度)な内視鏡検査と生検が推奨されます。頻度は個々の状況によって異なります。


2. 高悪性度異形成または早期食道腺がんの場合

高悪性度異形成は、がん化するリスクが非常に高いため、また、ごく早期のがんが発見された場合は、より積極的な治療が検討されます。近年は、内視鏡を用いた低侵襲な治療が主流となっています。

  • ① 内視鏡的切除術:

    • 内視鏡的粘膜切除術(EMR: Endoscopic Mucosal Resection): 粘膜層にとどまる比較的小さな病変に対して行われます。生理食塩水などを粘膜下に注入して病変を盛り上げ、スネア(輪状のワイヤー)をかけて高周波電流で焼き切ります。

    • 内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD: Endoscopic Submucosal Dissection): EMRでは切除が難しい広範囲な病変や、線維化を伴う病変に対して行われます。特殊な電気メスを用いて、病変周囲の粘膜を切開し、粘膜下層を剥がしながら病変を一括で切除します。高度な技術が必要ですが、より確実に病変を取り除くことができます。

  • ② 内視鏡的アブレーション(焼灼)治療:

    • ラジオ波焼灼術(RFA: Radiofrequency Ablation): 高周波電流を流して熱を発生させ、バレット食道の粘膜(異形成を含む)を広範囲に焼灼し、正常な扁平上皮の再生を促す治療法です。異形成を伴うバレット食道に対する有効性が示されており、欧米では標準的な治療の一つです。日本でも保険適用となり、実施施設が増えています。

    • その他の焼灼術: 光線力学療法(PDT)や凍結療法(クライオアブレーション)などが行われることもありますが、RFAが主流となりつつあります。

これらの内視鏡治療は、外科手術に比べて体への負担が少なく、食道を温存できるという大きなメリットがあります。ただし、治療後も再発のリスクがあるため、定期的な経過観察は必須です。


  • ③ 外科手術(食道切除術):

    • 内視鏡治療が困難な場合や、がんが粘膜下層より深く浸潤している場合などは、食道と周囲のリンパ節を切除する外科手術が検討されます。

治療方針は、病変の範囲、異形成の程度、がんの深達度、患者さんの全身状態などを総合的に評価し、専門医とよく相談して決定されます。


7. 日常生活での注意点 - 予防と自己管理


バレット食道と診断された方、あるいは予防したい方が日常生活で気をつけるべき点は、主に胃食道逆流症(GERD)の管理・予防です。

  • 食事:

    • 脂肪分の多い食事、チョコレート、柑橘類、香辛料、カフェイン、アルコール、炭酸飲料など、胃酸分泌を促進したり、食道下部括約筋を緩めたりする食品を控える。

    • 食べ過ぎ、早食いを避け、腹八分目を心がける。

    • 食後すぐに横にならない(少なくとも2~3時間は空ける)。

  • 体重管理: 肥満(特に腹部肥満)は腹圧を上げ、逆流を引き起こしやすくします。適正体重を維持・目指しましょう。

  • 禁煙: 喫煙は逆流を悪化させるだけでなく、発がんリスクも高めます。禁煙は必須です。

  • 服装: 腹部を締め付ける服装(きついベルトやガードルなど)を避ける。

  • 睡眠時の姿勢: 就寝時に上半身を高くする(枕やクッション、ベッドの角度調整などで15~20cm程度)と、夜間の逆流を防ぐのに効果的です。

  • ストレス管理: ストレスは胃酸分泌を亢進させることがあります。適度な運動や趣味などでストレスを解消しましょう。

  • 薬の服用: 医師から処方された胃酸分泌抑制薬(PPI、P-CABなど)は、自己判断で中断せず、指示通りに継続することが重要です。

  • 定期検査: 指示された定期的な内視鏡検査(サーベイランス)を必ず受けましょう。これが異形成や早期がんの発見につながります。


まとめ:バレット食道を正しく理解し、適切な対応を


バレット食道は、主に慢性的な胃食道逆流症(GERD)によって食道粘膜が胃の粘膜に近い円柱上皮に変化した状態です。それ自体に症状はほとんどありませんが、食道腺がんのリスクを高める前がん病変として重要視されています。


日本人に多いSSBEはほとんどの場合発がんに関しては無視できる範囲です。

それ程心配することは有りません。


診断には内視鏡検査と生検が不可欠であり、治療方針は異形成の有無や程度によって異なります。異形成がない、または低悪性度の場合は、GERDの治療と定期的な内視鏡サーベイランスが基本となります。高悪性度異形成や早期がんに対しては、内視鏡的切除術(EMR/ESD)やラジオ波焼灼術(RFA)などの低侵襲治療が積極的に行われます。


バレット食道と診断されても、過度に心配する必要はありません。しかし、食道がんのリスクがあることを理解し、医師の指示に従って適切なGERD治療、生活習慣の改善、そして最も重要な**定期的な内視鏡検査(サーベイランス)**を継続することが、がんの早期発見・早期治療につながり、長期的な健康を守る鍵となります。

胸焼けなどの逆流症状が続く場合は、放置せずに消化器専門医に相談し、一度内視鏡検査を受けることを強くお勧めします。


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